注目の3歳馬カテゴリーでは今年の3歳クラシックを盛り上げる有力馬達の紹介と共に
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今年の2歳王者決定戦で見ることができたのは、天才騎手の大記録達成ではなく、最強牝馬の血による10年越しのドラマだった。

 第67回朝日杯フューチュリティステークス(12月20日、阪神芝外回り1600m、2歳GI)で、史上初のJRA平地GI全制覇を狙った武豊のエアスピネルは2着に敗れた。勝ったのは、2005年に日米のオークスを制したシーザリオを母に持つ2番人気のリオンディーズ(牡、父キングカメハメハ、栗東・角居勝彦厩舎)。シーザリオが、エアスピネルの母エアメサイアをゴール前で首差かわした'05年のオークスを再現するような結果となった。

「3回乗って、今回が一番いい走りだった」と武が言ったように、単勝1.5倍の圧倒的1番人気に支持されたエアスピネルのレース運びは完璧だった。道中は中団で折り合い、直線で先頭に躍り出たときは、後ろをブッちぎるかに見え、スタンドが沸いた。ところが、外から来たリオンディーズにそれ以上の脚を使われ、3/4馬身差の2着に惜敗した。

「勝った馬が強すぎた。こういうところまでお母さん(エアメサイア)に似なくてもよかったのに。初めて似ているところが出てしまいましたね」

エアスピネルも素晴らしい走りだったが。

 2着から3着まで4馬身もの差がついたように、エアスピネルもGI馬となるにふさわしいだけのパフォーマンスを発揮したのだが、相手が一枚上だった。

「それでも来年のクラシックに向けて楽しみになりました」

 そう話した武の全GI制覇は来年以降に持ち越しになったが、その前に、クラシックでリオンディーズにリベンジすることができるか。またひとつ見どころが増えた。

 前半800mが47秒3、後半800mが47秒1。前後半のラップがほぼ同じで、先行した馬も充分余力を残せる流れだった。それを最後方から大外を回って差し切ったのだから、リオンディーズの強さは普通ではない。上がり3ハロンはメンバー最速の33秒3。2番目のエアスピネルが記録した34秒0よりコンマ7秒も速かった。これでまだデビュー2戦目なのだから、末恐ろしい。

デムーロ「2000mまではイケる」

 騎乗したミルコ・デムーロは、今年4度目のGI勝利となった。「すごい馬です。パワフルで、頭がいい。ずっといい手応えで、直線はちょっと外だったけど、すごく伸びた。今年は素晴らしい年です」

 前走、岩田康誠が騎乗して勝った新馬戦は京都芝内回りの2000mだった。

「今回は1600mで外枠だったので、ゆっくり行こうと思っていた。飛びが大きいので、スタートでダッシュをつけすぎると引っ掛かってしまう。ペースがあまり速くないし、4コーナーでエアスピネルが前にいたので、どうかなと思った」

 そう話すデムーロも、武の記録がかかった一戦であったことはもちろん知っていた。

「豊さんは朝日杯だけ勝っていないと聞いていた。豊さん、ごめんなさい」

 リオンディーズの距離適性に関しては「2000mまではイケる」と言い、「2400mは?」と問われると、「頑張ります」とだけ答えた。

角居調教師「空気を読まなくてすみません」

 管理する角居調教師は「いやあ、空気を読まなくてすみません」と苦笑した。

「前向きな気持ちで走っていくので、できるだけなだめるように調整しました。押して行けば掛かることを、ミルコは返し馬の感触からつかんだのでしょうね。2戦目なので、変な癖だけつかないように乗ってくれればいいと思っていました。何度も実戦を経験した馬との戦いだったので、直線に入っても、どれだけ伸びるかと思って見ていました」

 デビュー前から朝日杯を使うことをイメージしていたわけではなく、新馬戦を勝ったあと、さまざまな要素を考慮してここに向かうことを決めたのだという。

 デビューから29日目でのJRA・GI制覇は、1998年に阪神3歳牝馬ステークスを勝ったスティンガーと並ぶ最速記録。'84年のグレード制導入以降、キャリア1戦の馬が朝日杯を勝ったのは初めてのことだった。そうした舞台に、2000mで新馬勝ちした馬をあえて参戦させた智将の勝利でもあった。今後に関しては、現時点では何も決めていないというが、当然来年のクラシックで、エアスピネルや今週のホープフルステークスに出る馬たちと対決することになるだろう。


甦った10年前のオークスの記憶と、ディープ。

 母シーザリオは、角居調教師の管理下で新馬、500万下、フラワーカップと3連勝して桜花賞に臨み、追い込み及ばず頭差の2着に惜敗したのち、日米のオークスを制覇。故障のため、6戦5勝2着1回という成績で現役を退いた。第3仔のエピファネイア(父シンボリクリスエス)は、2013年の菊花賞、翌'14年のジャパンカップなどを制している。

 エアスピネルの母エアメサイアは、桜花賞4着、オークス2着と、ともにシーザリオに先着されたが、同年の秋華賞を優勝。翌'06年のヴィクトリアマイルで2着に惜敗したのを最後に引退した。繁殖牝馬としてこれまで目立った活躍馬は出しておらず、第4仔であるこのエアスピネルがダントツの出世頭だ。

 リオンディーズの父も、エアスピネルの父もキングカメハメハである。血統というのはそんなに単純なものではないのかもしれないが、父が同じなら、母同士の能力や適性、性格などの違いが、そのまま息子たちに色濃く出てくるのではないか。

 そんなことを考えていると、自然と10年前のオークスの記憶が蘇り、翌週のディープインパクトのダービーのゴールシーンまで浮かんできて、――そういえば、今年の朝日杯にはディープ産駒は一頭も出ていなかったな。と、また今の競馬に思考のベクトルが戻ったりしている。

 こういうのも競馬ならではの面白さだな、とつくづく思わされた週末であった。