福永祐一、19度目でのダービー制覇。「父への報告は顔を見てから」

5/28(月) 11:51配信

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19度目の挑戦にして、ついに福永祐一がダービージョッキーになった。

 検量室前で出迎えた友道康夫調教師は、ハンカチで目元を拭った。これが馬主として史上最多のダービー4勝目となり、淡々とした受け答えで知られる金子真人オーナーの目にも涙があった。

 他馬の関係者やマスコミ関係者も拍手を贈った。「競馬の祭典」と言われる日本ダービーならではの光景だ。

 「ふわふわして、地に足がついていない感じがします。これまでもGIを勝たせてもらっていますが、こんな気持ちになったのは初めてです」

 涙は乾いていたが、珍しく、声がかすれていた。そのくらい、福永にとって特別な勝利だった。

 「平成最後のダービー」となった第85回日本ダービー(5月27日、東京芝2400m、3歳GI)を、福永祐一が騎乗した5番人気のワグネリアン(牡、父ディープインパクト、栗東・友道康夫厩舎)が優勝。1番人気に支持されながら7着に敗れた皐月賞の雪辱を果たした。

8枠17番を引いて「目の前が真っ暗に」。

 半馬身差の2着は皐月賞馬エポカドーロ、3着は16番人気の伏兵コズミックフォース。ともに無敗で臨んだ1番人気のダノンプレミアムと2番人気のブラストワンピースは、それぞれ6、5着に敗れた。

 本番3日前の木曜日に枠順が発表され、ワグネリアンは8枠17番という外枠だった。

 友道調教師は「目の前が真っ暗になった」と言い、福永は「ぼくの代わりに友道先生が全部言ってくれた。おかげで気が楽になりました」と笑顔を見せた。ダービーでは内枠の馬が好結果を出す傾向があるのだが、福永は「最悪の枠」を引いたことで、かえって腹を括ることができたという。

 「いろいろな選択肢があったのですが、それがかなり狭くなった。この乗り方でなければいけない、と。それを一番いい形にハメ込むことができました」

福永「ほかの馬を見ないようにしました」

 ゲートからある程度出して行って、内に入れるなり、前に馬を置いて、好位で折り合いをつける――というのが、友道調教師と相談して決めたレースプランだった。

 そのとおりの乗り方で、好位の外目につけたまま4コーナーを回った。

 「内のブラストワンピースがものすごい手応えだった。あれだけ手応えがいいと押し出してこられるので、その隙を与えないよう、細心の注意を払ってコーナーを回りました」

 ライバルの力を封じながら、自身はスムーズにコーナーを回り、直線で加速した。

 しかし、前にいるエポカドーロとコズミックフォースをなかなかつかまえられない。

 「最後のほうは、ほかの馬を見ないようにしました。見ると負けると思って(笑)。デビュー戦より無我夢中になりました」

 逃げ粘るエポカドーロをかわしたのは、ゴールまで4、5完歩のところだった。

 勝ちタイムは2分23秒6。第8レースの青嵐賞(4歳以上1000万円下)の勝ちタイムが2分22秒9という高速馬場だったが、エポカドーロの戸崎圭太が1000m通過60秒8(青嵐賞は59秒6)という絶妙のペースで逃げたがゆえに、この時計になった。

 そのエポカドーロを管理する藤原英昭調教師は「ワグネリアンは人馬ともに強かった。称賛するしかない」と福永の騎乗を讃えた。


福永の初ダービーは14着だった。

 天才・福永洋一の息子として早くから注目されていた福永祐一は、1996年3月2日、初騎乗から2連勝という華々しいデビューを飾った。その年53勝を挙げ、JRA賞最多勝利新人騎手を獲得する。

 デビュー2年目にキングヘイローで東京スポーツ杯3歳ステークス(表記は旧馬齢)でJRA重賞初勝利をマークした。

 翌1998年、そのキングヘイローで初めてダービーに参戦。2番人気に支持されるも、折り合いを欠いて14着に大敗する。

 その後、2007年にアサクサキングス、2013年にエピファネイアで2着になっていたが、どうしても栄冠に手が届かなかった。

香港よりドバイよりダービーは特別。

 「もうこのまま勝てないんじゃないかと思ったこともありました。調教師になって勝つしかないのかなと(笑)。初めて緊張に呑み込まれる経験をしたのがキングヘイローのダービーだった。そして、騎手人生のなかで一番悔しくて、無力感を味わったのがエピファネイアのダービーだった。

 かと思えば、今、経験したことのない高揚感、充実感を味わわせてくれている。こういう経験をさせてくれる特別なレースなんだと、勝ったことでわかりました。ダービーだけは違うと聞いていたのですが、香港やアメリカ、ドバイでもGIを勝ってきて、やはり、ダービーが一番特別でした。上手く言い表せないのですが、普通、GIを勝つと喜びが先に来るんですけど、ダービーは、よくわからない違う気持ちになるんです」

 「スーパールーキー」と騒がれた福永も41歳になった。通算21勝目のGIは、特別だった。

「勝ってないのはぼくだけだった(笑)」

 福永が友道厩舎の馬によく乗るようになったのは、2008年の鳴尾記念などを勝ったサクラメガワンダーの主戦として起用されるようになったころからだ。

 「騎手に醍醐味を与えてくれる調教師さんです。それに応えられて、今日はよかったと思います。友道先生はマカヒキでダービーを勝っているし、金子オーナーはダービー4勝目で、ワグネリアンの父はディープインパクト、母の父はキングカメハメハだから、ダービーを勝ってないのはぼくだけだった(笑)。

 この馬は、今まで乗ってきたGIホースと違って、何で走るのかよくわからないんです。今日なんか、あのサイズ(450kg)の馬にできる競馬じゃなかった。ねじ伏せましたからね。

 マイルとかで走るようになりかねない馬に距離をもたせるのは『厩舎力』だと思います。今年が平成最後のダービーというのは意識していました。次の元号でもダービージョッキーになれるよう、精進していきます」

父への報告は「顔を見てから」。

 父の福永洋一氏は、デビュー3年目の1970年から9年連続リーディングジョッキーとなるも、30歳だった'79年、落馬事故のため引退。ダービーを勝てぬまま鞭を置いた。

 「父が一番勝ちたかったレースはダービーでした。志半ばで騎手生命を絶たれた父の代わりは誰にもできないのかもしれませんが、父と、師匠の北橋修二先生の夢をぼくが叶えたことは、喜んでくれると思います。

 どう報告するかは、顔を見てから決めます。ぼくは、父の名前でこの世界に入ってきました。今日は、福永洋一の息子として誇れる仕事ができたと思います」

 19度目でのダービー制覇は、父と同期の柴田政人調教師に並ぶ、初勝利までの最多騎乗記録だ。1998年の初騎乗から、'99年(落馬負傷)と2002年以外は、すべての年でダービーの騎乗馬を得てきた。

 なお、ノーザンファーム生産馬は2015年のドゥラメンテから4年連続での勝利。同一クラシック4連覇は史上初の快挙だ。平成に行われた30回のダービーで10勝目(1996年フサイチコンコルドを含む)となった。

 レース後、ワグネリアンは、東京競馬場から福島のノーザンファーム天栄に直行した。

 友道調教師は「まだまだこれから成長する馬です。夏場は休養させて、様子を見ながら今後の予定を決めていきます」と語った。

 高く、険しい山に登り詰めた人馬の今後が楽しみだ。

(「沸騰! 日本サラブ列島」島田明宏 = 文)



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騎手コメント

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戸崎騎手(エポカドーロ=2着)「もうちょっとでしたね。ハナに行くというのは、先生(藤原英調教師)と話をして、作戦の一つだった。できればもう少しペースを遅くできればよかった。それでもリズムよく運べたし、力のあるところを見せられた。距離は問題ない。長い感じはしなかった」

石橋騎手(コズミックフォース=3着)「ポジションを取るつもりで臨んだ。1コーナーをすごくいい形で入れて、いい位置で運べた。ペースが緩いなか、リズム良く上手に走ってくれた。調教でも、すぐに反応できる感じではなかったので、4コーナーから直線で反応できるように仕掛けていった。一瞬、勝ったかなと思ったくらい、手応えがよかった。頑張ってくれました」

ボウマン騎手(エタリオウ=4着)「今までのレース映像を見ると前に残しているレースが多かったが、ためてはじける競馬をしてみたかった。スタートの出が良くなく、前もカットされて、結果的に後ろからの競馬になった。これだけはじけると証明できた。外枠だったことは運がなかった。内枠だったら勝ち負けになった。能力のある馬だということを証明できてよかった。最後200メートルで一瞬勝ったと思った。非常に将来性のある馬」

池添騎手(ブラストワンピース=5着)「まずはスタートですね。唯一の不安が出てしまった。また、4コーナーで前のジェネラーレウーノが下がってきたので、切り替えるロスがあり、その間に勝ち馬にうまく回られてしまった。直線ではジリジリと伸びた。悔しいですね。うまく誘導できていれば、もっと際どい競馬ができた。あとはプラス10キロですね。中間はしっかり追い切りをこなして、いい感じで本番を迎えられたらと思ったが、プラス10キロでした。その差もあったかもしれない。僕が直線でうまく出せていたら違った。悔しいですね。ブラストワンピースにとっては一生に1回のダービー。何とかいい結果を出したかった。申し訳ないです」

川田騎手(ダノンプレミアム=6着)「報知杯弥生賞の時と比べたら、精神的に我慢してくれました。具合はすごくいい状態で臨むことができました。2400メートルでも我慢して走ってくれました。ゴールしてからすぐ止まってしまったように、今日はいっぱいいっぱいでした。目いっぱいの競馬をしてくれました」

蛯名騎手(ゴーフォザサミット=7着)「1コーナーで不利を受け、思っていた形ではなかった。もう一列前で運びたかった」

 ルメール騎手(ステルヴィオ=8着)「(皐月賞に続いて)もう一度スローだった。スタートが遅く、後ろから外を回って大変だった。直線で頑張ってくれたが、前も止まらない。勝ち馬からそう遠くないところまで頑張った」

丸山騎手(アドマイヤアルバ=9着)「スタートは出たが、二の脚がつかなかった。それでもしまいはよく伸びています」
 矢作調教師(ステイフーリッシュ=10着)「馬に進歩が見られた。秋が楽しみになった。今日は前に行かないと勝負にならない感じだったので、ゲートが全てです」

 内田騎手(タイムフライヤー=11着)「前につけたかったが、位置取りを下げてしまった。リズムよく走ってくれたんだけど…。ペースうんぬんではなく、伸び切れなかった」

Mデムーロ騎手(キタノコマンドール=12着)「スタートは良かったが、二の脚が遅かった。道中もかんでいたので、瞬発力がいつもほどはなかった」

  浜中騎手(サンリヴァル=13着)「ハナか2番手に行きたかった。あまりいい競馬ができなかった。大外枠で、お客さんに近い位置だったので、行き脚がつかなかった」

 岩田騎手(グレイル=14着)「ゲートを五分に出て流れに乗ろうとしたが、体がついていかなかった。ひと夏越して力をつけてくれれば」

 北村宏騎手(オウケンムーン=15着)「力をうまくため込めない走りをしている。直線に向くまでに、それが積み重なって苦しくなった。秋に期待したい」

 田辺騎手(ジェネラーレウーノ=16着)「遅い流れが良くなかった。無謀なくらいのペースの方がよかったのかもしれないが、よく分からない」

 武豊騎手(ジャンダルム=17着)「心配していた距離が出てしまった。4コーナー手前でいっぱいいっぱいになってしまった。今後は適距離の路線で活躍してほしい。マイルくらいが合っている」

 藤岡康騎手(テーオーエナジー=18着)「初めての芝でも好スタートを切って、いいポジションで運べた。結果は出なかったが、いい経験になるのでは」


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+++++ポイント結果+++++

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~タマネギのレース感想~

とある人の言葉ですが

不利受けにくい脚質かつダービーでは絶対的有利なはずの1枠の川田が3番手から詰まり、馬群をこじ開けるはずの池添が締められ、位置を取りに来るはずのデムルメが後方大外で空気。大外枠を引き後方大外ぶん回すはずの福永があっと言わせる先行策で、川田と池添を閉じ込めた。

なるほど。

福永騎手と戸崎騎手の好騎乗。

急に覚醒されちゃ馬券なんて当たりませんわな(笑)